約 3,341,578 件
https://w.atwiki.jp/shibumakubungei/pages/34.html
おいしい豚骨ラーメンのつくりかた ぼくの目の前のカウンター席に、黒のコートを脱ぎサングラスを外してどさりと座ったのは、紛れもなくイブキアヤコだった。 「豚骨ラーメン油多めニンニク多めの麺固めで」 桃色のぷっくりした唇を開いて彼女はそう言った。 ぼくはその唇を眺めてたっぷり三秒はぼうっとして、それから慌てて早口になって、 「あ、はい、ええと、豚骨ラーメン油多めニンニク多めの、えっと」 しどろもどろになったところで、イブキアヤコはぼくの目をまっすぐに見て微笑んだ。 「麺固めで」 ぼくは今度こそ本当になにも言えなくなった。彼女の顔を見つめて息ができなくなって三秒、足が震えて立てなくなりそうになって三秒。 「あ、はい、すみません、麺固めですね、えっとご注文は以上でお揃いですか」 口から心臓が飛び出そうな心地をなんとか抑えて、ぼくはそれだけの言葉をなんとか吐き出した。 もうその先は頭が真っ白である。 なんとかやり取りを済ませて厨房に戻って、ぼくは大きな鍋の中でぐつぐつと泡を吹いている豚骨スープを見下ろした。白く濁っていて、そのくせかき混ぜると金色に輝いて、体の髄まで染み渡るような暖かい匂いを漂わせる。 ぼくは最近ようやく、店の要であるこのスープ作りに携わらせてもらえるようになった。鍋の中に豚の骨、タマネギやらニンジンやら生姜やらの野菜、それから隠し味として貝柱を入れて、それで豚の骨がぼろぼろになって野菜が跡形もなくなるまで煮詰めるのだ。早朝からはじめて昼の開店時間になるまで、毎日毎日何時間も鍋の番をする。それでも東京のおいしいラーメン屋にはまったく敵わない。 ぼくは豚骨ラーメンが大好きだ。愛している、と言っても過言ではない。ラーメン特集のある雑誌は必ず買い集めるし、ラーメンを食べるために東京まで出向いたことも数え切れないし、高校生の頃にはこのラーメン屋やまめに毎日といっていいほど通いつめて、いつの間にやらアルバイトとしてこの店で働くことになっていた。 だけれどイブキアヤコとどちらが好きか、と言われれば答えに迷う。 イブキアヤコは若手の実力派として名をはせている売れっ子女優だった。大きな瞳と日本人離れしたすらりと高い鼻、それから少し高くてころころと転がるような声、彼女の魅力を語りだせばきりがない。最初は雑誌のモデルとしてデビューして、バラエティでちらりと登場したかと思えばあっという間にドラマに出演し映画では主役を張り、その人気はとどまるところを知らなかった。 知らなかった、というのは、彼女が今日付けで芸能活動を休止したからである。 そしてなぜぼくがそんなことを知っているのかというと、ぼくが重度の、イブキアヤコの大ファンだからだ。 ぼくはチャーシューを切りにかかり、そして震える手で包丁を握りながら、横目でカウンターに座る彼女を伺った。深夜の閉店間際の店内には、彼女のほかには誰もいない。イブキアヤコはくるくると店内を見回している。赤い細身のセーターを着て、長い黒髪がその上に垂れている。頬杖をついていて、袖からのぞく手首は雪のように白くて、しかも折れてしまいそうなほど細い。彼女は本当に、息をするのも忘れてしまいそうなくらいにきれいだった。 「このお店、昔とあんまり変わってないのね」 彼女は出し抜けにそう言ってぼくに笑いかけて、 「そういえば、キミの顔はどこかで見たことがあるような気がする」 ぼくはまたもや頭が真っ白になって、たっぷり五秒は呆然として、あやうく包丁で指を切り落としそうになった。 「い、いえ、気のせいじゃないかと思います」 我ながら情けない震えた声で返事をする。しかもぼくはうそをついた。唇の端が引きつってしまう。それがまた恥ずかしくて、ぼくは愛想なくそっぽを向いて、仏頂面のふりをして麺を茹ではじめた。 彼女のファンは多いけれど、その彼女の本名が伊藤綾だということを知る人は少ない。 そして、その伊藤綾が高校生の頃この町に住んでいて、ぼくが通っていたのと同じ高校を卒業して、このラーメン屋やまめの常連で、いま彼女が座っているのと同じカウンターの隅の席にいつも座っていた、なんてことを知っている人はもうぼくくらいだろう。 伊藤綾は高校生時代、ぼくのひとつ上の学年の先輩だった。その頃から彼女はきれいで、学校でその名前を知らない人はいなかった。当然ながら熱烈なファンも多くて、ぼくなんかはその筆頭だった。高校一年生の四月のはじめに廊下で一目ぼれして以来、それこそストーカー呼ばわりされても仕方ないくらいに、ぼくは伊藤綾を追い掛け回した。彼女の移動教室があるときにはぼくも一緒に廊下をうろつき、彼女が体育の日には窓から校庭を穴が開くほど見つめ、彼女がラーメン屋やまめの常連だと知ってからは、ぼくもそのラーメン屋に足を踏み入れて同じように常連になった。 そこまでしても尚、彼女に話しかける勇気はぼくにはなかった。オクテだったのである。 一度だけ、彼女と会話を交わしたことがある。彼女が卒業する日である。彼女に惚れ込んでいたぼくは何かしなければと焦って、だけれどその頃のぼくは彼女に話しかけたことがなく、他のファンの連中は告白やらデートの誘いやらをたくらんでいたけれど、ぼくにはそんなことはできなかった。 だから何をしたかというと、ホワイトデーにかこつけて、チョコレートを渡したのである。 しかもラーメン屋やまめの前で、である。学校では取り巻きも多かったしぼくと同じことを考える輩も多く、結局のところ話しかける勇気が湧かなくて、それで落ち込みながらやまめに通って豚骨ラーメンを啜っていたら、後から伊藤綾が訪れてきたのだ。しかも、ひとりで。 結局ラーメンを食べ終わった後に店の出口で待ち伏せして、ぼくは彼女にチョコレートを渡した。突然だったけれど彼女は手馴れた風にぼくに微笑んで、ありがとうと一言さらりと口にして、それから棒立ちになっているぼくを置いて颯爽と夜道に消えていった。 名前と連絡先を書いた手紙を添えておいたのだけれど、結局彼女から連絡が来たことは一度もなかった。 彼女はその後すぐに上京して雑誌に載りはじめたから、おそらくその頃にはもう芸能界入りが決まっていたのだろう。伊藤綾はイブキアヤコに名前を変え、ぼくも伊藤綾ならぬイブキアヤコに惚れ込み続けて、ついでにやまめのアルバイトになって、そうして何年かが経った。 そしていま、信じられないことに、ぼくは彼女の豚骨ラーメンを作っている。 麺を茹で水を切ってどんぶりの中に注いで、ぼくはそれを彼女に差し出して、そして精一杯の笑顔をつくった。 「とんこつラーメン油多めニンニク多めの麺固め、です」 目を合わせることができなくて、彼女の額のあたりをぼんやりと見ながらぼくはそう言う。 あんなに追いかけ続けたイブキアヤコが目の前にいるなんて、まるで奇跡みたいだ。 それからぼくはふと思いついて、その勢いで矢継ぎ早に、 「あの、えっと、イブキアヤコさんですか」 と聞いた。 ぼくとしては一生分の勇気を使い果たしたくらいの質問だったのだが、イブキアヤコは表情ひとつ変えずに手馴れた風に、 「ええそうです、初めまして」 と言って豚骨ラーメンをぼくから受け取った。ひんやりした冷たい指先がぼくの手に触れた。 店の中にはぼくと、それからイブキアヤコの二人きりだった。ぼくの目の前で、イブキアヤコが割り箸を割り、いただきますとつぶやいて、そして豚骨ラーメンを啜る。白い湯気がもくもくとどんぶりから湧き上がっている。油とニンニクの胃もたれしそうな香りのすぐ奥にイブキアヤコがいる。 「だけどもう私はイブキアヤコじゃないんだよ」 ぼくが八時間煮込んだスープを蓮華ですくって、イブキアヤコはそう言った。 「イブキアヤコは今日から活動を休止します。たぶん今日の新聞とか週刊誌とかには載ってると思うんだけど。知ってた?」 イブキアヤコは上目づかいでぼくの目を覗きこむ。 ぼくは突然怖くなって、彼女から顔をそむけた。視界からイブキアヤコがいなくなる。 「いえ、知らなかったです」 銀色の、いつも見慣れた小汚い厨房のシンクを見つめながら、ぼくはそう言った。イブキアヤコはうんうん、とうなずく。 「だよね。今日のニュースだもん。なんていうかね、テレビとか出るのに疲れちゃったの。それで活動をいったん休止して、故郷でお休みすることにしたの」 ぼくはそれも知っていた。さらに補足するなら、イブキアヤコは芸能活動のストレスから拒食症を患って、そのあたりの事情を週刊誌に暴露されて、それで活動休止を余儀なくされたのだ。けれど勇気がなくて、ぼくはなにも知らないふりをしてへえ、と相槌を打った。 イブキアヤコは玉子を口にひとくちで放り込む。ほどよい半熟になるように、ぼくがきっちり茹で上げた玉子だ。彼女は食べ終わった後で、あの玉子も吐いてしまうのだろうか。 「そんなに細いのに、すごい油っぽいもの食べますね」 そんなことを考えていたら、ぼくは我ながら頭の悪そうな質問をしてしまった。 とはいっても、これは高校時代からずっと思っていた疑問だ。豚骨ラーメン油多めニンニク多めの麺固めは、伊藤綾の高校時代のお気に入りメニューだった。毎回これを頼んでいたといっても過言ではない。ずっとその後姿を眺めていたぼくが言うんだから間違いない。 イブキアヤコははじめて表情を崩した。きょとんとした顔になってから、大きな口をあけて笑い出した。 「あははは、いやごめんね笑っちゃって、でも面白い質問するなあ、ふつうはもうすこし遠慮するのに」 そう言ってから、イブキアヤコは突然真剣な顔になって、 「でもこういうものを食べたのは高校生以来だよ」 気がつくと豚骨ラーメンの湯気がぷつりと途絶えていた。イブイキアヤコの顔が間近にあった。 「芸能界に入ったのが高校を卒業してすぐで、私はもともと食べても太らないほうだったけど、ガリガリに痛めつけるくらいに痩せないと画面の上では映えないから、だからこういう油っこいものは事務所に食べさせてもらえなかった。ずっとサラダとか、豆腐で作ったハンバーグとか、そういうのばっかり食べてたの。おかげでこんなに細くなれましたけど。豚骨ラーメンなんて久しぶりに食べるわ」 イブキアヤコは麺を啜り、チャーシューにかじりついて、そして最後にスープをすくって一口飲んだ。 雪のように真っ白な喉がごくりと動いた。 ぼくは何も言わずにそれを見ていた。 「ごちそうさまでした。おいしかったわ」 イブキアヤコはそう言って席を立った。ぼくは何か言わなければと思ったけれど、その思いばかりが頭を巡って結局なにも思い浮かばなかった。 イブキアヤコはどこかぼんやりとした目つきで、五百六十円を一万円札で支払った。 それからコートを羽織ってぼくに微笑んで、くるりと背を向け軽く会釈して、そうして店を出て行った。 ありがとうございました、と小さい声でつぶやいて、ぼくはその細い背中を夜道に消えるまで、まるで卒業式のあの夜のように見送った。 結局のところ、その日の夜はまったく眠れなかった。電気を消しカーテンを閉めて部屋を真っ暗にしても、脳裏に彼女の白い喉や赤いセーターが浮かんで、おかげでぼくは一晩中布団の中で寒さに凍える羽目になった。 翌日、ぼくは睡眠不足の目をこすってダウンジャケットを羽織り、昼間の街に繰り出した。 十二月だった。平日の昼間は凍りついたように静かで、人通りもほとんどない。こんな時間に出歩くのは主婦や学生と、それからぼくのようなシフトの入っていない暇なフリーターだけだろう。 ぼくは豚骨ラーメンを愛しているからラーメン屋でバイトしているのだけれど、家族にはあまりいい顔をされていない。 欠伸を噛み殺してマフラーをきつく巻きなおし、ぼくは駅前のビルに入っている本屋を訪れた。愛している豚骨ラーメンと、それと同じくらい愛しているイブキアヤコの載っている書籍を手に入れるためだ。 ラーメンのほうはこれといった収穫がなかったけれど、イブキアヤコの顔は新聞や週刊誌など、いろいろな紙面に載っていた。スポーツ紙の一面に、イブキアヤコ活動休止という見出しとともに、彼女の顔が特大のカラー写真で掲載されている。新聞の中で微笑む彼女は昨日の晩より化粧が厚くきらびやかで、心なしか透明な表情をしている。 ぼくは彼女が載った新聞や雑誌をすべて購入した。 紙の束でずっしりと膨れたビニール袋を抱えて、ぼくは書店を出た。吐いた息が白くなってもうもうと広がっていく。 家族から、ぼくはよく「おまえは好きなことに没頭しすぎる」とお叱りを受ける。まったくその通りなのだろう。毎日地元の街角でささやかな豚骨ラーメンを作り、その稼ぎでささやかながらもイブキアヤコの足跡を辿る。ぼくの生活は豚骨ラーメンとイブキアヤコだけで回っている、というわけだ。ぼく自身はそのことには満足しているのだけれど。 昼下がりの街は、来た時とは違い、昼食を探すスーツ姿の老若男女で駅前はすこしばかりごった返していた。ダウンジャケット姿のぼくは多少浮いているのかもしれない。ぼくは人の群れを突っ切って、住んでいるアパートの方向へ戻ろうとする。家に戻って昼食を食べて、それから仕事の時間までは今日入手した書籍の整理をしたい。 そんなことを考えていたら、前から歩いてくるスーツ姿の女性に見覚えがあって、ぼくはあ、と声をあげた。黒髪で化粧で顔を真っ白にして、早足で歩く吊り目の女性。相手も驚いた顔をして片方の眉を吊り上げる。 ぼくの姉だった。 「あんたまた昼間からそんな格好でぶらついてるの?」 ハイヒールをカツカツと鳴らしながら歩いてきてぼくをじろじろと眺め回して、姉はいきなりそんな風なことを言った。 ぼくはこの姉が苦手だった。会う度に小言を言ってくるのだ。ぼくがラーメン屋の店員、しかもアルバイトなのが気に入らないらしい。姉のほうはちゃんとした会社で立派に働いているらしいから、ぼくからはなにも言えないのだけれど。 「今日はシフトが夜からだから」 ぼくは反論を口の中でもごもごと呟いたが、 「会社員の仕事は一日中なのよ、一日中」 と、姉に一蹴されてしまった。 「だいたいね、この不景気の世の中で定職に就かないっていうのがどれだけ危険なことなのか、何回も言ってきたよね? 仕事はちゃんと探してるの?」 「ええと」 「ラーメンが好きだからどうのっていう言い訳は何回も聞いてるんだからね。せめてさ、いま働いてるラーメン屋に正規採用してもらう、って話はないの?」 「ええと、それは、なくもないけど」」 ぼくは言いよどんだ。姉は勝ち誇ったようにほら、という顔つきをする。 「だったらせめて採用してもらえばいいじゃない。飲食業界は私はあんまりお勧めしないけど」 実は、ラーメン屋やまめの正式な店員にならないか、という話は何度か持ち上がっているのだ。店長からそういった話を持ちかけられたことがある。君はまじめに働くしラーメンへの情熱もあるし、君みたいな人が店員になってくれれば、云々。 ぼくはその話が出る度に、へらへらした態度でなんとかはぐらかしてきた。 本当のことを言うなら、ぼくはラーメン屋やまめの豚骨ラーメンにはあまり満足していないのだ。もちろん、麺にも具にもスープにも、ぼくなりに精一杯のこだわりを詰め込んではいるけれど。 ぼくは、できることなら、東京に出て、修行して腕を磨いて、もっとおいしいラーメンをつくりたいと思っている。 もちろんこんなことは姉には言えない。 「うん、考えておくよ」 ぼくはそう言ってそっぽを向こうとしたけれど、姉の不機嫌は治まらずに、今度はぼくの抱えているビニール袋を指差してきた。 「なにこれ、またイブキアヤコの写真集めてるの? また、壁に貼ったりする訳?」 「ちょっと、そんなこと、大声で言うなよ」 ぼくは赤面した。確かにぼくはイブキアヤコのポスターや写真を壁に貼ったりしているのだ。だけれどそれが世間的に恥ずかしい、ということくらいは自覚している。 「一人暮らしなんだから、好きにさせてよ」 「定職にも就かないくせに、芸能人ばっかり追いかけてるから言ってるの」 姉は不機嫌そうに眉根を寄せてぼくをにらむ。よく見れば化粧越しにうっすらと黒い隈が見える。なにしろキャリアウーマンだから、姉も疲れているんだなあ、とぼくは妙に納得する。 人通りがどんどん増える。姉の表情は険しさを増す。 「壁一面イブキアヤコのポスターで、第一このイブキアヤコって人はうつかなにかで辞めたんでしょ? そんな人の写真貼って、グッズも集めたりして、ずっとイブキアヤコの追っかけばっかりしてるじゃない、フリーターなのに」 「だからそんな大きい声で」 そう言いかけた途中で、ぼくは口をあんぐりと開けた。 ぼくと姉が言い争う横を、ひとりの女性が通り過ぎた。サングラスをかけてトランクケースを引きずっていた。風になびく黒髪で、見覚えのある黒いコートを羽織っていた。マフラーの隙間から、雪のように白く細い喉が見えた。 姉が大声でまくし立てる一部始終を聞いて、ぼくたちの横を通りすがった彼女はサングラス越しにぼくを見た。目が合った。 姉の声は聞こえなくなっていた。ぼくの頭の中は彼女の小さな頭と不釣合いに大きなサングラスでいっぱいになった。彼女はどこまで聞いていただろう。壁に貼られたポスターのことは聞いただろうか。 身も凍るような十二月の風がビルの隙間から吹き付ける。 「ぼくだって子供じゃないんだから、姉さんも黙っててよ」 ぼくは声を荒げた。ぼくにしてはめずらしいことだった。我ながら幼稚な反論だった。姉は押し黙る。 その脇をすり抜けて、ぼくは早足でアパートへの道をずんずんと突き進んだ。途中で姉が何か言っていたような気がしたけれど耳に入らなかった。 なにも知らないふりをしていた内気なラーメン屋のアルバイトが、実は自分のポスターを壁一面に貼り付けているようなやつだと知ったら、イブキアヤコはどんな顔をするだろうか。 予定通りの午後三時に、ぼくはラーメン屋やまめに出向いて仕事をはじめた。夜の混雑時を迎えるまでは客も少ないから、ぼくはひとりでこのラーメン屋を切り盛りする。 新しいチャーシューを鍋に放り込んで皿を洗って在庫の確認をして、店長に任されていた材料の発注をする。今日も深夜までシフトを入れてあるから、我ながら店員以上の働きだ。店長よりも働いているかもしれない。 ぼくは唐突に、そこまで働きながらも店員にもならず、悩んだ挙句に東京にも行かない理由に気づいた。認めてもらえないことが怖いからだ。 どれだけ仕事をしても気が紛れなくて、ついにぼくはレジの近くに置いてある椅子にどさりと腰を下ろした。 ぼくは昔からイブキアヤコを、伊藤綾を追いかけ続けてきたけれど、彼女の目に留まるようなことはなるべく避けてきた。伊藤綾がラーメン屋やまめに通っていたときも気づかれないように彼女の位置から見えない席ばかりを選んでいたし、話しかけようと思ったことなんてあの卒業式の日の一度きりだ。彼女がイブキアヤコになってからも、写真を集めたりテレビを録画したりはしたけれど、サイン会なんかの類には一度も行かなかった。怖かったのだ。 豚骨スープの匂いが店内に漂っている。しょせん小さな一ラーメン店の、大して人気もない豚骨スープだ。ぼくたちは丹精をこめてつくりあげているのに。 ぼくにはイブキアヤコを、彼女に気づかれないように遠くから眺めているのが似合っているだろうし、東京に出てラーメンの修行を積むのだって無謀なのかもしれない。 入り口の扉に取り付けた呼び鈴がちりんと鳴った。ぼくはあわてて立ち上がって、いらっしゃいませ、と声をかけようとして、だけれど客の姿を見てその場でまたもや棒立ちになった。 あの黒いコートを着て、かけていたサングラスを外して後ろ手で扉を閉め、イブキアヤコはぼくに微笑んだ。 息が詰まりそうになって呆然として、ぼくの頭はまた真っ白になった。さっきまで考えていた悩み事なんて、一気に全部吹き飛んでしまった。 「こんにちは、この味が懐かしくてまた来ちゃった。豚骨ラーメン油多めニンニク多めので麺固めをお願い」 そんなぼくを意にも介さないという風に、イブキアヤコはカウンター席に優雅に腰掛ける。今日は紺色のブラウスを着ている。手首がやっぱり、信じられないくらいに細い。 「豚骨ラーメン油多めニンニク多めの、えっと」 「麺固め」 そう言ってイブキアヤコは宝石のような瞳でぼくを見る。昼間の一件を思い出して、急に顔が火照るのを感じた。ぼくはその視線から逃れるように厨房に引っ込んで、あわてて麺を茹ではじめる。目をきょろきょろさせて彼女が厨房を覗き込んでいるのが見える。ぼくはぐつぐつと湧き上がる鍋の中をじっと見つめる。なにも考えられなくなる。 「え、ええと、ぼくはええとその、確かにアルバイトなんですよね、正式に店員にならないかって話もあるんですけど、なんというかぼくは実は東京に行きたくて」 視線に耐え切れなくなって、ぼくは聞かれてもいないのにそんな話をぺらぺら喋った。イブキアヤコは黙ってぼくを見ている、ような気がする。ぼくは黙って麺を茹で、具材を切るのに集中する。チャーシューが不ぞろいな大きさになる。 結局ぼくは東京に店を持つ野望に至るまで、ラーメンへの情熱をすべて語りきってしまった。 話し終わったころにはラーメンもすっかりできあがってしまった。豚骨ラーメンです、とぼそぼそと呟きながら、ぼくはどんぶりをイブキアヤコに手渡す。彼女の顔を正視できない。麺を茹ですぎたかもしれない、とぼくは場違いなことを考える。 「私、キミのことを思い出したの」 ぱちんと割り箸を割る音がして、イブキアヤコはそう言った。 「私が高校を卒業したときに、ラーメン屋やまめの前で、チョコレートをくれたでしょう。よく覚えてる。その前からいろんなところでちらほら顔も見かけてたから」 ぼくは顔を上げた。 ぼくの長ったらしい話を聞いた後でも、イブキアヤコはいやな顔ひとつせずに、目を細めて微笑んでた。そうしてまっすぐぼくを見ていた。 「高校時代のころは本当にあちこちで見かけるから、どういう子なんだろうって思ってたよ。でも結局、卒業式の日にしか話さなかったよね。あの時期に何か話せてたら面白かったのに」 ぼくは彼女の顔に見入ってしまった。細められた目の輝きとかまつ毛の長さとか、顔にかかる前髪の一本一本とか、そういうものを見ていると、ラーメンのことも姉との口論を見られたことも、ぼくはいつのまにか全部忘れてしまっていた。 「ぼ、ぼくなんか喋っても面白くないですよ」 ぼくは大人気ない返事をしてしまう。彼女はそうかなあ、と首をかしげて、 「そんなことないし、それに私も芸能界に入る前、同じようなことを考えてたよ」 ふとぼくは彼女が化粧をほとんどしていないことに気づいた。ふだん紙面では隠されているほくろまでよく見える。右目の斜め下に、ひとつ大きなほくろがある。高校時代にはそのほくろをよく眺めていたはずなのに、ぼくはそのことをすっかり忘れていた。 ぼくの目の前に、伊藤綾が座っていた。 「それにキミのつくるラーメンはおいしいし。ねえ、キミの名前はなんていうの?」 伊藤綾はぼくのつくったスープを飲んで微笑んで、それからぼくを見上げた。大きな瞳が瞬いた。香水の甘い匂いが広がるのを、ぼくはすこしだけ嗅いだ。 翌日から、ぼくは東京に行く準備をはじめた。ネットで安いアパートを探し、不動産に電話をかけ、トランクケースを買った。 イブキアヤコは故郷でしばらく休養することになった。温泉に行く計画も立てているらしい。スキャンダルになった拒食症も、この街に戻ってきてからはすっかり治ってしまっている、そうだ。ぼくはそのことを伊藤綾にメールで教えてもらった。 ラーメン屋やまめを来月いっぱいで辞める契約も取り交わした。 暇な時間には、ぼくは時折おいしい豚骨ラーメンのつくりかたと、残り短いこの街での生活のことを考える。年が明けてこの街にもうっすらと雪が積もった。その雪が解けるころには、ぼくは東京に向かうのだろう。 その前にすこし、お洒落な喫茶店でも探してみようか、なんてことも、ぼくはいま考えている。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/marowiki002/pages/146.html
目次 【概要】ラーメンの起源 ラーメン好きの中国人 ラーメンが課題の料理試験 【参考】ブックマーク 関連項目 タグ 最終更新日時 【概要】 ラーメンの起源 麺としての起源は不明らしい。 ラーメンの起源は江戸時代に伝えられ麺料理が、 明治・大正を経て変質した物というのが有力な説らしい。 少なくともラーメンは中国料理ではない。 ラーメン好きの中国人 基本的には変であるが、 カリフォルニア巻きが好きな日本人がいてもおかしくないので、 ラーメン好きの中国人がいても変ではないと思う。 ただ、あまり多用はできないと思う。 ラーメンが課題の料理試験 これはものすごく変だが、 試験側が成金の素人で 主人公が倒した後ウンチクをたれて完全勝利するという演出にだったら使える。 しかし中国の本格的な試験の課題がラーメンだった場合は明らかにアウトだと思う。 【参考】 ブックマーク サイト名 関連度 備考 Wikipedia ★★ ラーメン Wikipedia ★★ 麺 関連項目 項目名 関連度 備考 創作/料理の分類 ★★ タグ その他 創作 生活 最終更新日時 2012-06-05 冒頭へ CENTER COLOR(#111) BGCOLOR(#ced)
https://w.atwiki.jp/wiki5_ra-men/pages/411.html
今回は岩手県南方面へ 久々に水沢にある喜多方ラーメンの小法師へ 入り口に期間限定ごまみそラーメンと言う看板につられました。 ごまの香りと味がしっかり出ているのですが肝心の味噌はどこという感じです 何となく鉄分多めな感じとしょっぱさがちょっと強いです この2点を抑えれば良くなると思うのですが 2006/01/28 17杯目ごまみそラーメン 670円 岩手県水沢市佐倉河字鐙田30 TEL 0197-51-2488 営業時間 平日11 00~23 00 日祭日11 00~22 00 定休日 無休 駐車場 有 by 熊ちゃん 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/216.html
本日はねぎ塩ラーメンを スープは何となくテールスープに近い感じがします 麺は太麺ですがちょっと固かったです これが細麺なら良かったのかもしれません・・・ 残念ながら完食することは出来ませんでした 醤油に味噌が旨いだけに残念 食べた日 2005/12/03 ネギ塩ラーメン 600円 栗原市築館字照越八ツ沢38-16 TEL 0228-25-3313 営業時間 平日11 00~23 00 休日11 00~22 00 定休日月曜日(祝日を除く) 駐車場 有 by 熊ちゃん 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/2rou/pages/263.html
朝礼 三田本店で行われている習慣。 開店前に常連を店に入れてラーメンを振る舞うこと。
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/563.html
歓送迎会で物足りなかったので帰りにラーメンショップネギっこ築館店に行って来ました ギョウザとネギ味噌ラーメンを食べました ギョウザはまずまずラーメンの方ですがちょっと味噌の量が薄いそんな感じです まぁ宴会の後だからでしょうか? こういう日もありますよね 2006/04/05 48杯目 ネギ味噌ラーメン 650円 ギョウザ 300円 栗原市築館字照越八ツ沢38-16 TEL 0228-25-3313 営業時間 平日11 00~23 00 休日11 00~22 00 定休日月曜日(祝日を除く) 駐車場 有 by 熊ちゃん 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/367.html
今回は岩手県南方面へ 久々に水沢にある喜多方ラーメンの小法師へ 入り口に期間限定ごまみそラーメンと言う看板につられました。 ごまの香りと味がしっかり出ているのですが肝心の味噌はどこという感じです 何となく鉄分多めな感じとしょっぱさがちょっと強いです この2点を抑えれば良くなると思うのですが 2006/01/28 17杯目ごまみそラーメン 670円 岩手県水沢市佐倉河字鐙田30 TEL 0197-51-2488 営業時間 平日11 00~23 00 日祭日11 00~22 00 定休日 無休 駐車場 有 by 熊ちゃん 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/2rou/pages/241.html
スピンアウト系 目黒店で11年間助手を務めた肥後(本名は鈴出延宏)氏が独立開業したらーめん玄が名乗り始めた新たなカテゴリー。 一般的には亜流かインスパイア系と言えるだろうが、敢えて違いを上げるとしたら 直系で修行をした 三田本店での修行はしていない(させて貰えなかった) 本店修行をしていないので暖簾分けを許されなかった というところだろうか。 直系としての暖簾分けは許されなかったが、三田本店と無関係のインスパイア系ほど師弟関係は薄くない。そこで暖簾分けではなく分派である、というニュアンスでスピンアウトを名乗っているのだろう。 もっともそういった二郎系の店は結構あり、らーめん玄が初めてというわけではない。 それどころか直系店主が二郎から離れて開業している例もある。 (ラーメン富士丸、ラーメンこじろう、肉うどん さんすけなど) なお、らーめん玄の「スピンオフ」の経緯は以下の通り。(出典) 店主の鈴出延宏氏が35歳の時に未経験でいきなり三田本店に弟子入りしようと門を叩くも当然断られ、総帥直々に「近くの支店で1~2年くらいやっておいでよ」と目黒店の店主を紹介される。そこで1~2年どころか11年も週6日勤務を続けるも三田本店での修行は叶わず、7~8年経った頃から独立を考えていたこともあって46歳で直系店主への道を諦めてインスパイア系として独立した。 ちなみにこのインタビュー記事では自らインスパイア系と名乗っており、当人の認識でも初めは格好をつけてスピンアウトと言ってみたものの、所詮インスパイアはインスパイアという事が伺える。
https://w.atwiki.jp/2rou/pages/210.html
シャッター 常連など特別な客をシャッターが開く前(実際には半開きだが)、つまり開店前に店に入れてラーメンを振る舞うサービスのこと。 一般客の先頭であるPPを超え、完全な特別扱いである。
https://w.atwiki.jp/toki_resu/pages/288.html
ぐいりいんすたんとらーめん【登録タグ くじ レア度レア レシピ 不破評価 五十音く 伊達評価4 作られる個数5 和食 必要体力16 最大レベル☆10 神崎評価 辻評価 追加日20130827 霧島評価 音羽評価】 カテゴリ 和食 習得条件 くじ で入手 最大レベル ☆10 必要体力 16 作られる個数 5 レア度 レア レシピ追加日 2013/08/27 習得方法 くじ でレシピ獲得 → 具入りインスタントラーメン 習得 料理レベル別 獲得リッチ・イベント 料理レベル 獲得リッチ グルメ値 習得レシピ 発生クエスト 達成クエスト 獲得アイテム ☆0 40 41 - わくわくの3分♪/ふつう - - ☆1 44 46 - - - - ☆2 48 50 - - - - ☆3 52 54 - - - - ☆4 56 58 - - - - ☆5 60 62 - - - - ☆6 64 66 ☆7 67 70 ☆8 70 74 ☆9 73 78 ☆10 76 82 キャラ別 花・渦の数 花は正の数、渦は負の数にしてください。 背景色はコメントの文字の色です。(花・渦の区別ではありません。) 料理レベル 霧島 音羽 辻 伊達 不破 神崎 ☆0 2 ☆1 1 1 ☆2 2 1 1 ☆3 2 1 1 ☆4 1 2 1 ☆5 -2 1 -2 2 1 1 ☆6 -1 1 -1 2 1 1 ☆7 -1 1 -1 2 1 1 ☆8 -1 1 -1 2 1 1 ☆9 -1 1 -1 2 1 1 ☆10 -1 1 -1 2 1 1 ▲▲ページ top